R3:Scape-City Online (シンガポール)  + 諏訪 – 横浜

R3

R3 Scape-Cityは、諏訪盆地の自然・歴史・文化に焦点をあて、現代社会の諸問題に応答する芸術表現の可能性を探究します。

日本列島中央部の山岳地帯に位置し、八ヶ岳や霧ヶ峰といった急峻な山々に囲まれた諏訪盆地では、人々が暮らす共同体と自然環境との対話を通じて独特の文化が花開きました。本事業は、共同体の外縁に横たわる境界地帯(borderlands)の自然環境に着目し、人間の共同体をその「外側」から捉え直すことで、現代社会が直面する諸問題に対して新たな光をあてます。

私たちはこの目的のために、旧御射山遺跡や和田峠をはじめとする諏訪盆地周辺で現地調査を実施し、境界地帯における人間と自然の関わりから生起した同地域の思想・文化・精神性について議論を重ね、その成果をパフォーマンス作品として結実させました。村田峰紀は和田峠の旧中山道を辿ることで、「移動」がはらむ困難を身体感覚の次元で問い直しました。また、濵田明李は黒曜石を産出する渓谷において、「運搬」という行為がもつ原初的な意味を考えました。武谷大介は諏訪信仰の伝統的な「儀礼」を手がかりとして、地域に根ざした信仰と霊性の形態を独自の視点で捉え直しました。さらに、たくみちゃんは諏訪大社の背後に広がる森林地帯を舞台に、歴史的地層が幾重にも積み重なった空間に対して「応答」を試みました。そして、前田譲はこうした思想・文化・精神性を未来へと「継承」する方途を模索しました。

諏訪の物語は、山の中では終わりません。諏訪で育まれた思想・文化・精神性は、境界地帯を越えて、さまざまな地域へと伝播していきます。近代になると、諏訪盆地では製糸業が勃興しました。同地域で生産された生糸は、周辺の山々を越えて横浜港へと運ばれ、欧米諸国へと輸出されていきました。諏訪の周辺地域が山の境界地帯であるとすれば、開港都市横浜は、日本と諸外国の狭間で多様な人々が往来する海の国境/境界地帯です。本事業は、諏訪と横浜の歴史的なつながりに注目し、山の境界地帯で得られた知見を、海の境界地帯が生み出す国際的な視野に接続することで、現代社会における「狭間の空間」の文化的意義を解き明かしていきます。