「記憶は沈澱する/される」 食事・展示・座談会 次世代への記憶継承のかたち

 わたしたちDAIS石巻は、市民の手で震災の生きた記憶を伝える資料館「生きた記憶の資料館」の整備を進めています。一般的に震災伝承館には、出来事を象徴する重要なモノや、出来事を生き延びた人の貴重な証言を長期的に保存する役割があります。それは過去のある時点で固定された記憶を、誰かに受け渡すという考え方を前提としています。一方、わたしたちの「生きた記憶の資料館」は、人と人、モノや空間との相互行為から、その時、その場で生じるダイナミックな記憶を重視しています。人々が記憶を想起し、語る、その活動によって成立するパフォーマティブな資料館を目指しています。そこでは出来事を体験した人、そうでない人などの多様な人々が交わり、言語だけでなく、非言語の芸術を通して記憶を共有します。このようなコンセプトをもった伝承館はこれまでありませんでした。「生きた記憶の資料館」は実現できるのでしょうか。できるのだとすれば、どのような方法で実現できるのでしょうか。このような問いをみなさんと共有しながら、その探求のプロセスを始めたいと思います。

 今回は「記憶の沈澱」をテーマに、石巻で活動されてい奥堀亜紀子氏、清水葉月氏、小野雄希氏をお招きし、さつまいもの収穫、食事会、資料館見学、そして座談会を通じて対話を深めます。「記憶の沈澱」とは、聞きなれない言葉ですが、去る8月3日に門脇小学校遺構にて開催された国際シンポジウムのタイトルです。「震災の記憶が風化している」とよく言われますが、記憶が消え去ったというわけではなく、意識の深いところに沈殿していて何かをきっかけに再浮上するものだと私たちは考えました。そしてそのきっかけの一つとしてアートの可能性について検討しました。座談会では記憶とはどういうものなのか、それを継承するにはどのような方法があるかについて、それぞれの立場から話します。

 石巻には震災の記憶を語っていない人がまだたくさんいます。語り難い経験を語るには、安心して話せる関係性が重要です。関係性をつくるには、経験を共有することが役立ちます。そこで、今回はDAISファームで育てているさつまいもの収穫、食事会、資料室の見学によって語りの基礎となる関係性をつくった上で、対話する企画を考えました。複雑な記憶を言語化することは簡単ではありませんが、経験を共有したり、他者の記憶を聞くことによって、自身の経験が整理され、過去の経験の新たな意味が見えてくるかもしれません。すでに記憶継承に携わっている方々はもちろん、なんとなく震災のことが気になっている方や、表現することに関心のある方、逆に表現することにためらいのある方など、さまざまな人の参加をお待ちしています。それぞれの人にとって気づきが生まれる場になれば幸いです。

実施概要

主催:遠足プロジェクト実行委員会(「生きた記憶の資料館」準備室)

日時:2024 年 9月 15日(日)10:00-15:30

助成:3.11メモリアルネットワーク基金2024年度助成、令和6年度宮城県NPO等による心の復興支援事業補助金

会場:DAIS 石巻(石巻市真野字内原 228-2) Map
 石巻駅より車で約 15 分。駐車場は 30 台まで無料です。

プログラム:

(1)10:00-12:00 DAISファームのさつまいもを収穫します。(座談会中に焼き芋を食べましょう!)

(2)12:30-13:30食事会&作品鑑賞会

DAISファームで収穫したとれたての野菜などを使って、地域の人々が家庭料理をふるまいます。DAIS石巻に新設する「生きた記憶の資料館」に保管する「震災をきっかけに生まれたランドセル型のアート作品」の資料室の準備の現場を見学します。

(3)13:30-15:30座談会 

「記憶の沈澱」をテーマに、石巻で活動されている奥堀亜紀子氏、清水葉月氏、小野 雄希氏、3人のお話を伺います。進行:梶原千恵氏。

参加費:1プログラム500円、(1)~(3)通しで1,000円

お申込み:QRコードまたはhttps://forms.gle/wrtayFcwR4TwdX6v8よりお申込みください。

お問い合わせ:aadastudygroup@gmail.com

座談会 登壇者

奥堀亜紀子

1982年岐阜県生まれ。2017年3月神戸大学大学院人文学研究科文化構造専攻博士課程後期課程修了。同年4月より日本学術振興会特別研究員PDの採用に伴い、宮城県石巻市を拠点に東日本大震災後の喪の作業に関するフィールドワークを開始。任期終了後も石巻市での研究を継続。2022年4月に私設研究所「東北てつがく研究所」を設立。

清水葉月

1993年福島県浪江町生まれ。東日本大震災が発生後、関東へ母子避難する。2016年から宮城県女川町・石巻市で子ども支援の活動に携わる。現在は宮城県石巻市に在住し、一般社団法人Smart Supply Visionにて、震災当時子どもだった若者たちと共働し『未来をつくる声を届けるプロジェクト』を行う。震災を語り伝える若者たちのコミュニティ発起人。

小野 雄希

石巻市博物館 学芸員(美術) 。1997年福島県富岡町生まれ。埼玉大学、大阪大学大学院修了。2023年より石巻市に移住。それに伴い、東京電力第一原発事故で帰れなかった富岡町の実家の整理を始める。実家は2024年の9月中旬から解体が始まるため、その思い出や記憶の継承の方法を考えている。

梶原千恵

宮城教育大学 中等教育専攻 芸術体育・生活系(美術) 准教授。芸術工学博士(九州大学)。専門は美術教育学、アートマネジメント。東日本大震災の記憶を伝える「遠足プロジェクト実行委員会」の共同代表。自然災害の被災者、障害者、外国人など社会的に弱い立場にいる人々との協働によるアート活動、研究に従事している。